ブラームス ピアノ五重奏曲 Op.34 第1楽章

1楽章は分かりにくい楽章です。何度も演奏しましたが、これが果たして名作なのだろうかと疑ったこともあります。演奏するうちによくわからなくなってくるのです。いろいろ考えてみて一応まとまったので書いてみます。

 

1楽章はソナタ形式で作曲されています。

第1主部(1-33小節):
楽譜1で始まります。22小節まで極めて力強く第1主題が提示され、発展して、23小節でヘ短調に解決すると同時に経過部が始まります。
楽譜2の音型F1は重要な役割を持ちます。第1主部の部分は4拍目から入るようなところが多く、初めて演奏する方はこの辺で落ちます。

Brahms PQt101                          楽譜1
Brahms PQt102                          楽譜2

経過部はヴァイオリンで演奏されます。変調を経て嬰ハ短調に落ち着きます。Brahms PQt103                          楽譜3

第2主題部
第1主題は16分音符による楽譜2のF1でサポートされますが、第1主題は楽譜4の3連音符の音型(F2)に導かれます。
楽譜4に示した部分全体を第2主題なのだと考えると見通しが良くなってきます。
しかし、全体を一つの歌と考えるのは感覚的に抵抗があります。

3つの部分に分けて考えられると思います、ピアノで演奏される部分、正確には楽譜4の前に3連音符が続く小節が1つありますので、33小節から38小節の6小節のまとまりです。次はヴィオラによるメロディックな2小節とピアノによる分散和音的な2小節のまとまりです。(39-42小節)この組み合わせがもう一度繰り返されます。(43-46小節)
図式化すればA-B-B'です。

Brahms PQt104                          楽譜4

楽譜4を見て一つのまとまりに見えるでしょうか。Aの部分では、第1主題と強い対照をなす3連音符のF1が提示され、その後の展開で重要なモティーフM2が提示されます。ppで始まりsempre p を経てdecres.で終わります。
Bの部分はヴィオラの悩まし気なメロディのあと、慰めるようなピアノのフレーズが全く同じ格好で2度続きます。

では、この第2主題を統一するものは何かということですが、それは全曲を貫くcresc.+decres.を持つフレーズへのこだわりであると思います。ふつふつと沸いてきては、すぐに消えてしまうような何かへの慈しみのような感じがします。
第2主題としてまとめた部分を、そのように聴衆に伝えるには色々と工夫が必要だと思います。しかしそのようにすることができればこの楽章をよりわかりやすい形で表現することができそうです。

第2主題は終始せずに、再提示されます。そして第1主題のF1と組み合わされます。第2主部は74小節まで継続します。

結尾部
変ニ長調にいったん落ち着いて結尾部が始まります。

Brahms PQt105                            楽譜5
楽譜5の音型を繰り返しながら最後の部分が変形されて楽譜6のようになります。ここはリズム的にも和声的にもややこしく心を込めて演奏しにくいところです。

Brahms PQt107                            楽譜6

複雑になってどこに落ち着くかと思えば、楽譜6の3小節目のd''-a'-g'にフォルテで流れ込むのですが、d''-a'-g'というのは第1主題の最初の音型を逆(鏡像)にした音型です。それにpoco a poco cresc. でfにいたりdecresc.するというパターンこそブラームスが表現したいものであり。そのようなことを考え合わせると見事な提示部の結尾部だと言えます。

展開部:
提示部の構成を把握してしまえば展開部以降は大変にわかりやすいです。
楽譜7の初めにヘ音記号で示したチェロの音型は第1主題のM1を反転して引き伸ばしたものです。ト音記号で示したヴァイオリンで始まるメロディは勿論第1主題を変形したものです。

Brahms PQt106                           楽譜7

楽譜7のフレーズを使用して、第1主題をそのまま使うことなく展開部は進行します。
その後第2主題冒頭のM2による展開が続きます。そしてセカンドヴァイオリンとヴィオラにより第1主題が現れ再現部に至ります。

再現部:
再現部は入りは166小節ともいえそうですが、160小節から始まるテーマは丁寧にcresc.+decrescが書かれており、それに続くチェロのメロディも同様です。ですから160小節を再現部の始まりと意識するのは如何でしょうか?

第二主題部は嬰へ短調で始まります。

コーダ:
Poco sostenutoで始まるコーダはヘ長調でとても平安な感じです。
280小節から始まる嵐のようなacceler. poco a poco でTempo Iにいたり圧倒的な力で荘重に1楽章を閉じます。Brahms PQt108                          楽譜8

この作品がピアノ五重奏として世に出るまでに、多くの変遷がありましたが、私が楽譜を調べた限りでは弦楽五重奏として作曲された時期から、ブラームスは音楽的内容を一切変更していないことに感銘を受けました。

 

 

 

 

 

 

 

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