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Brahms Piano Trio No.2 作品解釈

ブラームス ピアノ・トリオ第2番 ハ長調 Op.87

作品の概要と背景

 

第1楽章

提示部

第1主題部

図1は冒頭に提示される第1主題です。Vn,Vcのユニゾンで明快に提示されます。

この主題からM1,M2,M3の動機が導かれます。M3は半音階の進行が利用されます。


Mov1001

 

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Beethoven 弦楽四重奏曲 Op.18 楽譜比較

ベートーヴェンの初期四重奏曲については、原典として参照できる資料が少ないおかげで、楽譜の差異は小さいと考えられます。現在比較できる楽譜としてはHenle版(1996)とBarenreiter版(2007)があります。ほかにPeters版(不詳)がありますが、ここではHenle版とBarenreiter版の比較します。ソースとしてはベートーベンによる自筆譜は失われており、Lobkowicz collection の手書きのパート譜(1800)、初版(1801)の二つしか現存しません。

Henle版(1996)はPaul Milesの校訂で基本的に新ベートーヴェン全集 Series VI Vol.3 (1962)に基づいております。その後発見されたLobkowitzの手書きパート譜は、全集の補遺と正誤表に反映され、このヴァージョンにも反映されています。
研究スコアと同様の書き込みがパート譜の脚注にも書かれています。練習番号はなく、小節表示です。
Henle版は()による演奏へのヒントがべーレンライター版よりも多く実用的かもしれません。

Barenreiter版(2007)はJonathan Del Marによる校訂です。研究スコアの序文にどのような校訂をしたかがかなり詳細に記述されており分かりやすいです。ただしパート譜には、校訂上のコメントはなく結論のみが示されています。練習番号と小節表示の両方があります。原典により忠実であると思います。

 

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Brahms Piano Quartet No.2

ブラームスの室内楽作品としては最も規模が大きくて約50分程度かかります。今まで何度か合わせてみたことはあるのですが、きれいな曲だが長いという印象しかありませんでした。今回この曲を真面目に演奏してみようということになったので、曲の構造を自分なりに把握するためにメモとして書いてみようと思った次第です。
 

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Mozart 弦楽四重奏曲 楽譜比較

ベーレンライター社の原典版は1962年に出版されていますが、Moserによるペータース版も現在まで100年以上にわたり広く使われてきました。この二つの楽譜を比較しました。

ペータース版

まず、ペータース版の特長について考えたいと思います。校訂はAndreas Moser(1859 – 1925) と Hugo Becker(1864-1941)によるものです。Moserはヨハヒムに師事しましたが、腕の病気のため演奏家を諦めヴァイオリンの教育者の道を選び3巻のヴァイオリン奏法など多くの実績を残した方です。

  • Beethoven: String Quartet Op 59 No 1 (with Joachim) (Peters, 1902).
  • Beethoven: String Quartets, Op 127, 130, 131, 132, 133, 135 (with Joachim and Hugo Dechert) (Peters, 1901).
  • Haydn: 30 String Quartets (with Hugo Dechert) (Peters, date unknown).
  • Mozart: 10 String Quartets, K. 387, 421, 428, 458, 464, 465, 499, 576, 589, 590, (with Hugo Becker) (Peters, 1882)

Hugo Beckerは有名なチェリストであり弦楽四重奏以外にもイザイ、ブゾーニとピアノトリオ、シュナーベル、カール・フレッシュなどとピアノ三重奏団を組織しています。

出版は1882年ですから大分古いのですが、当時最高の演奏家、音楽家によって校訂されておりペータースの楽譜には当時の弦楽器の奏法や演奏習慣がしっかりと保存されていると言えます。

ペータース版はベーレンライターの原典版が出版されるまで、世界中で広く使用されていた楽譜です。

ベーレンライター版
1940年代から原典に回帰する動きがHenle社などにより広まりいわゆる原典版が広く使用されるようになりました。
作曲家が直接かかわったとされる資料を比較検討して、最も適当と思われる版を作ろうとする作業です。何々社原典版と呼ばれ、原典版は出版社によりみな異なります。

モーツァルトの弦楽四重奏について、ベーレンライターの序文によれば、英国博物館にある自筆譜と初版を原典として使用しております。6曲のハイドンセットについては自筆譜と初版には多くの相違点がありますが、初版のための修正はモーツァルト自身が自分で行ったか、深く関与したと考えられるので、原則として自筆譜に寄っています。初版のデータを使用した場合には脚注にその旨を記述しています。(但しスコアだけであり、演奏譜には記述はありません。)

 

それでは弦楽四重奏ト長調 K387 「春」を見てみましょう。見比べていると原典に対してどのような改定が行われたかが推測できるようになると思います。一般的に、フィンガリング、ボーイングは作曲家によって指示されることはほとんどありません。

 

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Brahms Piano Quartet No.2 楽譜比較

ブラームスのピアノ四重奏の出版社による楽譜の比較を行いました。
楽譜として手元にあった、Henle, IMC, Eulenburgを使用しました。Peters版も参考にしました。
Henle版は序文とコメントがあり小節数も表示してあり使いやすい楽譜です。IMC版は練習記号と小節数が表示されこれも使いやすい楽譜です。ペータース版は、練習番号だけですので少し使いづらい面があります。

ヘンレ版の前書きによれば、楽譜ソースとしては手稿譜、出版のもとになったブラームスによる弦楽パート譜、ブラームスの書き込みがあるジムロック初版です。この作品については手稿譜がしっかりしているのでこれが基本になっているようです。
初版と手稿のもっとも大きな差異は1楽章の再現部ですが、手稿では出だしと同じですが、初版では1オクターブ下で再現され和音も薄くなっています。このような変更は作曲家でなければできないものなので、この部分はどの出版社も初版をベースにしております。

以下の表に詳細な比較をしておりますが、ヘンレ版とIMC版で大きく異なる点は1楽章の再現部の弦ですが、IMC版には<>があります。参考にペータース版も<>があります。Henle版、Eulenburg版にはありません。解釈に影響があると思います。2楽章は大きな差異はないと思います。3楽章246小節の1括弧です。これは楽譜が違うのでどちらを採用するかではっきり結果が違います。PetersはIMCと同じです。4楽章は大きな差異がないと思いますが191小節のVnの<の位置がHenle,Petersは1拍目からで、IMC、Eulenburgは<が4拍目からです。これもどのようにするか迷うところだと思います。

1楽章          
小節数 パート Henle IMC Eulenburg
218 2-3 Vn,Va,Vc 無記号 <>がある 無記号
2楽章          
小節数 パート Henle IMC Eulenburg
24 2-4 Vn 2-3拍で< 2-4拍で< 1-4拍で<
30   Vn 一つのスラー スラーを2つに分割 一つのスラー
31   Vn 一つのスラー 1-2拍だけにスラー 一つのスラー
53   Vn,Va,Vc Vn,Va,Vc 3,4拍に< Vn,Va,Vc 3,4拍に< Vn,Vaは34泊、Vcだけは1-4に<
89   Vn,Vc <だけ <> <だけ
127   Vn スラーがない 1,2拍、3拍、4拍にスラー 1,2拍にスラー
144   All 1拍 cresc 、2-3拍< 2-3拍で< 各パートで異なる
3楽章          
小節数 パート Henle IMC Eulenburg
209-210   Vn,Va,Vc 209-210に< なし なし
214、282など   Vn,Va,Vc 1拍だけスラー 2拍目にスタカートとスラー 1拍だけスラー
246 3拍 Vn,Va,Vc 3拍目は休符 3拍目にA音がある。 3拍目は休符
291,292   Vn,Va,Vc HNの解釈でStaccをつけている なし なし
4楽章          
小節数 パート Henle IMC Eulenburg
33   Vn,Va,Vc poco f pf pf
63、64   Vn,Va,Vc HNの解釈でPiano と同様にp、cres.を加えている なし なし
67   Vn,Va,Vc HNの解釈でPiano と同様にfとしている なし なし
154   Vn  mf なし なし
191   Vn 1拍から< 4拍に< 4拍に<
238   Vn,Va,Vc accent なし accent あり accent なし
309   Vn なし cresc, cresc.
502   Vn 8va ad lib. ad.libの記述なし 8va ad lib.

 

 

 

 

ラズモフスキー 第1番 2楽章の チェロのsotto voceの意味は

雑談中に「ラズモフスキー第1番の3楽章のチェロにsotto voceがついているところがある。ほかについていないのだけどなぜだろう?」 97小節から始まる美しいチェロのメロディです。このメロディは24小節でもチェロで歌われますが、そちらはespressivoです。ほかの部分でもsotto voceは書かれていません。

beethop-59no0301図1 97小節Vc
 

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ハイドン 弦楽四重奏曲 Op.20から1曲を選ぶならば?

太陽四重奏曲と呼ばれるOp.20は初期のハイドンのモニュメント的な価値がありますが、一曲を推薦ならばどうなのかということを考えてみたときのメモです。何かのご参考になれば幸いです。作品の順番はHenle版のスコアの
順序にしました。作曲順に並んでいると思います。

それから、、ふと思いついて楽章ごとに難易度を書き込んでみました。難易度の定義が難しいのですが、大体すべての室内楽がほぼIn Tempoで演奏できる人を考えて、その人にとっての難易度を表現しました。ですから初心者の方は、1を2と読み替えると良いかもしれません。技量の問題を中心に評価しています。
難易度の表示:1.少しの練習か初見でも演奏可能、2.事前の練習が必要である。3.時間をかけて準備する必要がある。
 

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ベートーヴェン ヴァイオリンソナタ 第6番 イ長調 Op.30-1

ベートヴェンのヴァイオリンソナタ 全曲を演奏会で取り上げている友人と演奏機会があったので6番をお願いしました。初期から中期の様式を確立する過程の作品群として、果たしてどのように演奏するか色々考えていたのです。

ベートーヴェンは当時耳の病に悩みながらも、音楽家としての成功を強く望んでいました。だから成功しなければならない作品と自分の書きたい音楽の間には温度差があったのだと思います。従って交響曲のような作品では第1番(Op.21)、第2番(Op.36)ではハイドン的な要素を踏襲して危なげのない成功をもくろんだのだと思います。

従って、自分の書きたい作品、実験的な作品は小編成の作品で始められたと思います。例えばピアノソナタでは、O.13の悲愴ソナタのころから実験的というか、ロマンティックな傾向が表れています。

交響曲を書くためにも、室内楽で色々試してから取り掛かるベートーヴェンの慎重さが現れています。

だからこの6番のソナタにしても彼が考える新しい様式が人々に受け入れられるかどうかを、少しづつ試しているのだと思います。

このような事情を考慮すれば、6番を演奏するときにはかなり前向きな、ロマンティックな表現をしてゆくのが正しい解釈のような気がします。

但し、中期を超えた時点のような演奏になってはいけないのだとも思います。

 

第1楽章: Allegro
提示部
1-19 第1主題 提示
20-33 経過部1
34-49 第2主題
49-67 経過部2
67-83 結尾部

展開部
83-94 第1主題による展開。cresc. f, decresc.に意味がある。
95-102 第2主題による
102-114 第2主題の動機による展開
114-118 第2主題の動機と経過部2による展開
119-150 第1主題の動機と結尾部を組み合わせた展開

再現部
150-168 第1主題 提示
168-186 経過部 多少変形されている
187-202 第2主題
202-220 経過部2
220-234 結尾部

234-249 コーダ

2楽章:

1-16 主題Aの提示と確保
17-26 主題B
27-43 主題A
44-51 主題C
52-63 主題D
64-78 主題Aの提示と確保
79-91 主題E
92-105 結尾部

3楽章 Allegretto con Variazioni

主題:2部形式

第1変奏:和音を保持した性格変奏
第2変奏:装飾的変奏
第3変奏:動機による性格変奏
第4変奏:ピツィカートを使用した性格変奏
第5変奏:短調による変奏と第6変奏への幻想的な序
第6変奏:1-32長調による変奏曲。全曲の終曲としての自由な変奏。

バッハの演奏解釈

バッハのヴァイオリンソナタ第1番 ロ短調 BWV1014 を弾いてみようと思うのですが、どうしてよいかわからないのです。バロックの作品の演奏解釈となると、装飾音のことなどが話題に上りますが、現代ではほぼ解釈の方法が確立しているような感じです。装飾音や、和声の問題は知っておくべき常識のようなもので、わきまえている必要は大いにありますが、バロックだからと特別に解説するようなことは少ないと思います。

音楽は作曲から徴収へのメッセージですが、バロックの時代には、もちろん音楽が芸術だという感覚は実用的な用途に合うように作曲されたものであり、宗教音楽では、宗教的な儀式をより効果的にするため、そして世俗的な曲については聴衆を楽しませるために作曲されたものです。

古典派以降の音楽はクラシックという確立した様式を基礎にしているので、道筋の立った手法があると思いますが、クラシックの様式をバロックに使用するのは無理なことだと思います。そのような意味でどうしてよいか迷っています。

とりあえず1楽章から手を付けることにします。Adagio

第1部
1-11  冒頭の4小節は主題の提示というよりも、バスとチェンバロの右手によるパターンの提示のようです。6小節のVnによる16分音符によるフレーズでe-mollに転調します。そして8小節のVnによる16分音符によるフレーズでh-mollに転調し、11小節でしっかりとh-mollで終止します。

しかし12小節からはfis-mollにすぐ転調します。その後VnによるダブルストップのフレーズがA-durで始まりf-mollに転調して20小節でf-mollで終止します。

第2部 20-31
第1部は20小節で終止しますが、同時に冒頭のリズムパターンがチェンバロにより提示され、21小節で同じパターンがヴァイオリンとバスに引き継がれます。これで冒頭に戻ったような形式感があらわされています。ここからは冒頭のパターンを縮小したような形で使用して、少し切迫した感じが出ています。そして27小節から前半で使用したヴァイオリンによるフレーズが始まり31小節でh-mollに終始します。

コーダ 31-36
31小節h-moll,32小節e-mollで冒頭のパターンを変形して再現したところで、ヴァイオリンの印象的なソロに続いてしっかりと曲を終わらせます。

どのように演奏したかは演奏が終わった後ご報告します。

第2楽章 Allegro

BachVnSonataBWV1014-0101

テーマの扱い方を見てゆきます。

第1部:提示部

1-4 h-mollによる提示(Vn)
5-8 fis-mollによる提示(Cem)
12-15 h-mollによる提示 (Bass)
15-26 テーマに続く音型を使用した自由な経過
27-40 h-mollによる提示(Vn)と自由な展開

第2部:テーマの展開
41-52 テーマの冒頭を和声的に使用した自由な展開
52-61  Bass(d-moll),Cem(a-moll),Vn(e-moll)によるテーマの提示
62-102  冒頭の音型に導かれた自由な展開。89小節からはfis-mollでCem, Vnの順でテーマが現れてfisが長く演奏されて調整の安定が図られて、101小節でfis-mollで終止する。そのごバスに導かれて再現部が続く。

第3部:テーマの再提示
102-105 h-mollによる提示(Vn)
106-109 fis-mollによる提示(Cem)
113-116 h-mollによる提示 (Bass)
116-126 テーマに続く音型を使用した自由な経過
126-141 h-mollによる提示(Vn)と終止。

上記のように明確に3部分に分けられており、第3部は第1部と同じ構造です。

このような構造ならば

 

セカンドヴァイオリンについて 上達法

弦楽四重奏ではファーストヴァイオリンがリーダーシップを持ちます。世の中ではファーストヴァイオリンよりもセカンドヴァイオリンが好きな方が沢山います。

理由はいろいろあるのでしょうが、ビジネスの世界でもリーダーシップを取りたいと思う人は割合に少ないことを思えば、謙遜しているというわけではないようです。

セカンドヴァイオリンの一番のメリットは練習をあまりしなくても音楽を十分に楽しむことができるという点にあると思います。誤解を避けるために補足すれば、ある人が演奏会でファーストヴァイオリンとセカンドヴァイオリンの両方を弾くとしたら、恐らくファーストヴァイオリンの練習に使う時間はセカンドヴァイオリンの10倍以上になると思います。

そうは言うものの、やはりまともに弾けないと仲間に入れません。最低限さらうことは何でしょうか?
それは、音程、リズムと音量です。音楽的なことについては別に考えてみましょう。

 

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