シューベルト ピアノトリオ 第2番 4楽章

この楽章は非常に美しく、シューベルトの世界に引き込まれてしまうのですが、演奏するにしたがって延々と続く4楽章に疲れてきてしまいます。そのうちにいつ終わるのだろと心配になるぐらいです。

なぜこのようなことが起こるかというと、出だしのフレーズがとても優しい感じであり、この楽章は楽しいロンドだろうと勝手に思ってしまうからではないでしょうか。

今回楽譜をよく眺めてみると、全く違った様相が現れてきました。一言でいうとこの楽章は緊密に構成されたソナタ形式で書かれており、それをしっかりと再現して組み立てる視点を持たないと迷路に迷い込んでしまうのです。

大まかに区分すると、1-230小節までが提示部です。そして231-539が展開部。再現部は540-758小節。コーダは758-846小節です。提示部が230小節、展開部が769小節、再現部が219小節、コーダが89小節。展開部が非常に大きいのが特徴です。

ここで小節数の表示ですが、新シューベルト全集に準拠したベーレンライター版の表示に従っています。ベーレンライター版はシューベルト原稿に基づくものです。Aritaliaによる初版の出版時に省略されていた部分が表示されています。現代ではPeters版が広く使用されておりますが、これは省略版であり、4楽章は748小節ですから98小節も短いのです。

 

提示部の第1主部

テーマ:図1に第一主題の冒頭を示します。この主題は16小節で構成されておりピアノで演奏されます。4小節単位でA-B-C-C'の形をしていますが、冒頭の動機M1により関連付けられて、糸を紡ぎだすように主題がなめらかに進行します。

Schubert.trio 401png                            楽譜1

その後、主題はヴァイオリンに72小節まで続きます。

第2主部
2分の2拍子になりハ短調で第2主題が提示されます。

Schubert.trio 402                            楽譜2

ppでヴァイオリンにより演奏されます。ごく単純な動機M1を4つの8分音符で刻んだだけの主題ですが、天上の響きがあり、まさにシューベルトだけが表現できる音の空間だと思います。第2主題はチェロ、ピアノと一貫してピアニッシモで引き継がれます。

次に121小節から明るく元気な挿入部分に続きます。駆け巡るような16分音符で修飾されており、とても華麗な演奏効果があり第2主題と強い対象を作り出しています。

Schubert.trio 403                             楽譜3

163小節でffzで突然減7の和音で終始して、幻想的な4小節の序奏のあと第2主題が再提示されます。ピアノで始まりポリフォニックにチェロ、ヴァイオリンが加わります。ここで第2主題はより魅力的に2度繰り返されて第2主部を終えます。

結尾部
第1主題を変形したフレーズを使って結尾部を構成して、提示部を終了します。

Schubert.trio 404                             楽譜4

結尾部では第一主題のM1を効果的に使用しています。
ベーレンライター版には230小節に反復記号があります。これによってシューベルトはこの部分が提示部の終わりであることを示しています。

展開部

展開部は4小節と費やしてロ短調に転調して楽譜4を短調にしたピアノのフレーズで始まります。273小節までが第1主題による展開です。

274小節から突然第2楽章のテーマ全体が挿入されます。

Schubert.trio 405                            楽譜5

321小節から第2主題が展開されます。楽譜2のフレーズと第2主題の4つの8分音符を2分音符に置き換えた楽譜6を組み合わせて展開が続きます。

Schubert.trio 406                            楽譜6

この展開はppで始まりますが、楽譜6からは力強くfで始まり、立体的に展開されます。次に続く第2主題そのものの展開を効果的にする意図があるかもしれません。

382小節で減7の和音が現れて438小節まで提示部の第2主部に現れた印象的な第2主題を展開します。この展開は減7の和音の柔軟性を生かしたものであり、383小節からは変ホ長調、395小節からは変イ短調、408小節からはロ短調、423小節からはヘ長調へと引き継がれます。各調性による表情の変化を表現しています。

長大な第2主題の展開部に対して、省略記号がベーレンライター版には記入されています。初版では358小節から407小節を省略しており、現在のPerters版に踏襲されています。

438小節からは第二主題を変形した楽譜6による展開が続きます。変ホ短調からロ短調に転調して2楽章のテーマである楽譜5に接続します。

473小節からは2楽章のテーマと第2主題の楽譜2を組み合わせて展開しています。

513小節でM1を使用した結尾部の動機が現れて、539小節で長大な展開部を終了します。

再現部

第1主題部は539小節から616小節まで変異長調に転調して第2主題に接続します。第2主部はへ短調で開始して617小節から720小節まで、そして結尾部は721小節から758小節までです。ソナタ形式による再現部です。

コーダ
759小節からのコーダは展開部の入りのように始まりますので、第2展開部が始まるのかと思ってしまいます。ホ短調で楽譜4が始まります変ホ短調に転調して、2楽章のテーマがチェロで演奏されます。そのテーマが終了した瞬間に819小節で鮮やかに変ホ長調に転調します。そして最後に第1主題がffで印象付けされて曲を華やかに閉じます。

 

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