Brahms Piano Trio No.2 作品解釈

ブラームス ピアノ・トリオ第2番 ハ長調 Op.87

作品の概要と背景

 

第1楽章

提示部

第1主題部

図1は冒頭に提示される第1主題です。Vn,Vcのユニゾンで明快に提示されます。

この主題からM1,M2,M3の動機が導かれます。M3は半音階の進行が利用されます。


Mov1001

 

第1主題は21小節までホルンの響きが聞こえるようにのびやかに進行して半終止して、22小節からM3から導かれたフレーズが現れます。このフレーズは密集した形でVnの重音であらわれ、フレーズの途中からPfが低音ではいり、次にPfの高音に受け渡されます。

そして33小節で第一主題の提示は終了です。

その後は56小節まで第1主題の確保が行われて第1主題部が終了します。

 

Mov1002

第1経過部

57小節から79小節までは動機M3から導かれたメロディックな第1経過部であり、3連音符の伴奏を伴ってピアノで美しく演奏されます。

図3は8小節で構成されているが、最初の4小節はdolceの指示があるものの、リズムは規則的である、それに対し後半の4小節はppの指示でクレシェンド、デミネンドなど細かい指示があり、リズム的にも乱れがあります。ここではピアノにより深く自由な表現を求めています。続く休符で示された1小節は弦楽器が演奏するが、ここは弦楽器の次に続くメロディへのアウフタクトとしてよりも、ピアノのメロディの余韻と感じたい。弦による演奏の後F1を使用して第1経過部を終えて第2経過部に接続します。

Mov1003

第2経過部

第2経過部は80-101小節です。3連音符で始まる単純な旋律であり、伴奏も丁寧にスタカートがついています。正確にはテヌート・スタカートの指示ですが第1経過部からは大きく離反しています。(図4上段)どのようなスタカートが適切なのか悩ましいところです。

Mov1004

 

3連音符の音型F2は付点付きの音型F2に形を変えてフォルテで演奏されます。(図4下段)F3により第一主題部を盛り上げてるが、このフォルテの部分があるためにデリケートな第2主題がとても効果的に導かれています。

第2経過部については軽く素朴に演奏するのがよいのではないかと思う。F3は力強い音型であるが、それを表現するのは展開部にしたいと思う。

 

第2主題部

図5はピアノで歌いだされる第2主題を簡略化したもので、ピアノからヴァイオリン、チェロと受け継がれピアノの印象的なフレーズをチェロが繰り返して終了するという流れを表しています。

調性は規則通りの属調であるG-durを取っている。

構造は2小節単位の積み重ねであり、[2+2+2+2+1]+[2+2+1]

ため息のような1小節が追加されていることで、第2主題をより印象的なものにしている。

最後のGの音は、次のフレーズに含めずに第2主題の一部と解釈をすることもできそうである。

第2主題は付点8分音符と16分音符によりデリケートに修飾されており、女性的な性格は、第1主題と効果的に強く対照している。

チェロ・ソロの3小節目、5小節目にあるため息のような休符はピアノのソロをきれいに引き出します。

Mov1005

第2主題の提示後は音型F1を積み重ねて展開して提示部を終える。

 

展開部:

提示部の繰り返しをしないので、1楽章冒頭を繰り返したように展開部が開始しますが、すぐにF3を使った展開が行われるます。転調をへてDes Durでチェロにより図6下段のメロディがうたわれるが、これは上段に示した第1主題を拡大したものです。このメロディはcis mollでヴァイオリンに引き継がれます。

その後図2に示したM3に由来するパッセージが続きM1によりクライマックスを作り再現部に接続します。

Mov1006

 

再現部:

形式通りに再現される、第1主題部は提示部では56小節ですが、主題の確保は省略して26小節の簡潔な形にまとめられている。

経過部の調性は提示部ではG-durであるが、C-durで再現されます。

第2主題部はC-durで再現されるが、コデッタの部分でC-dur>c-moll>b-moll>ais-moll>h-holl>c-mollと複雑な転調を繰り返してStringendoでコーダに接続します。

 

コーダ:

コーダはピアノが減7の和音を4小節演奏し、図6で使用されたテーマの拡大型をヴァイオリンがc-mollで開始してAs-durに転調し、エンハーモニックにE-durに転調し、さらにFis-durをとって、ゆっくり減速してA-durに落ち着きます(336小節)。337小節から a tempoにもどり、343小節から調性を安定させるハ長調の下属音が響き第1主題を高らかに歌って曲を終えます。

コーダは、展開部で見せた同様のテーマの拡大による部分に比較して、発想記号も含め非常に入念にかかれている。展開部ではピアノはひたすらチェロおよびヴァイオリンのメロディを支える役割になっているが、コーダでは重要な表現を担っています。

 

第1楽章は一見雑然としているように見えるが、大変緻密な構成をしていることが理解できる。下記に1楽章の分析表を記す。非常に整然とし無駄のない構成であることが分かります。

 

 

 

 

 

 

第2楽章:

主題

恋歌といえるほどロマンティックな内容をもつ性格変奏曲です。

図7は2楽章のテーマです。自然な民謡風に聞こえるますが、ブラームスらしい工夫があるように思われます。4小節の小楽節の構成にまとめてみます。

[A-A-B-A’]-[C-D]-[D’]

前半の部分は民謡のような形式をしていますが、後半のCDは冒頭の動機M1によって統一されている。D‘は^^Dを反転させてリフレーンのような効果を作っています。

 

Mov2001

 

第1変奏

動機M1とM1による自由なピアノのソロを組み合わせた性格変奏です。主題と同じ構造[A-A-B-A’]-[C-D]-[D’]を保っています。

図8はヴァイオリン、チェロによる暗い感じのM1がピアノに引き継がれて薫り高いフレーズが導かれます。

Mov2002

 

第2変奏

リズムを変化させた装飾変奏であり、ヴァイオリンとチェロの掛け合いが美しい。

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第3変奏:27小節

主題の冒頭部分から展開した、性格変奏です。102-108小節からメロディックな部分で変奏曲らしいバランスと取っています。

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第4変奏

8分の6拍子、イ長調で始まり主題から大きく離反しています。チェロは主題に関係がない優美なメロディを歌いだします。主題との関係は、短調の主題を長調に変えて、和音の構造を保守して修飾したものである。図11の上段は主題の伴奏を表し、下段が第4変奏のピアノパートであり、マーキングを付けた部分が主題の音であり、半音階的に修飾されていて

伴奏部分は p dolcissimo sempre との注意書き込まれている。

 

Mov2005

 

第5変奏

チェロとヴァイオリンが美しく歌う深い、情感が漂う修飾変奏である。

Mov2006

 

コーダ:163-170

懐古調の8小節のコーダが付加されている。

下記は2楽章の分析表です。

第2楽章    
小節 小節 内容
1 27 Theme
28 54 第1変奏
55 81 第2変奏
83 108 第3変奏
109 135 第4変奏
136 162 第5変奏
163 170 コーダ

 

第3楽章:Scherzo

Scherzo(presto)-Poco meno presto-prestoという3部構成になっています。

プレスト部分は不安定に回り続けるコマのようで、実り豊かなPoco meno prestoを最も効果的に聴かせるよう構成されています

 

Presto

主題は無窮動のようであり、小節数で、2+2+2+2=8 という構造をしており反復記号で締めくくられています。

Mov3001

展開部1

反復記号の後はM1~M4の動機が組み合わされて18小節の展開が続いた後、コラールのような下記の6小節のコデッタで締めくくられます。

展開部2

 

Mov3002Mov3003

展開部2

主題+展開部1とほとんど内容は変わらず、次に続くPoco meno prestoとの強い対比を作るためPrestoの部分では意識的にメロディックな部分を使用せずに、短い動機と激しい転調による不安定な曲想を演出しているようです。

 

Poco meno presto

中間部のヴァイオリンで始まる16小節の主題は2オクターブ半におよぶ音域をもつ開放的で明るいメロディである。この部分は反復記号があり2度繰り返される。

その後、日差しが少し陰って、再び明るくなるような16小節のパッセージが続く。

再び主題がなり中間部が4小節のコデッタで終了する。

 

Presto

中間部を終えると再びPrestoが繰り返されて3楽章を終了する。

 

下記に分析結果を示す。

第3楽章    
小節 小節 内容
Presto
1 8 主題
9 32 展開部1
33 61 展開部 2
Poco meno presto
62 77 主題
78 93 展開
94 109 主題
Presto
110 117 主題
118 141 展開部1
142 164 展開部 2
165 175 コーダ

第4楽章 Finale

提示部

第1主題部

ソナタ形式です。第1主題を図16に示します。Allegro giocosoは生き生きとして痛快なアレグロという意味でしょうが、主題はpで初めてfに至りますが、2拍子が2回続いて、3拍子が2回続くような滑稽は感じがあります。

図16の伴奏音型(図17)も極めて重要な動機として扱われています。

 

第11小節から第1主題がピアノのバスで確保されますが、ヴァイオリンは反転した音型を演奏します。コデッタを経て22小節で第1主題部を終了して、第2主題に接続します。

Mov4001

Mov4002

 

第2主題部

第2主題はピアノによりg-mollで提示されます。すぐにヴァイオリンとチェロにより確保され、第2主題を多少変形したパッセージにより42小節で終了して、軽快なコデッタが演奏されます。

 

Mov4003

コデッタはチェロの快活なスタカートの音型に乗って、ピアノにより図17で示した音型が3連音符で装飾されて演奏されます。

 

 

展開部

提示部の反復を行わないので、展開部は冒頭の第1主題を反復して始まります。図19のように3連音符で修飾されてピアノにより軽快に演奏されます。

Mov4004

74小節からは第2主題がE-durフォルテで表れます。図17の音型による展開の後、今度はF-durで第2主題があらわれます。97小節からは図17の音型による展開が116小節まで続き再現部に接続します。97小節からの展開は常にppでスタカートでの演奏が要求され再現部の4小節手前でフォルテになりますが、最後はppで演奏されます。

 

再現部

第1主部はほとんど忠実に再現されます。主題の表情記号が異なります。P mezza voceがsotto voceになり、クレシェンド・デクレッシェンドの指示がありません。

第2主題部はa-mollになっていますが、忠実に再現されています。

コデッタ部分も同様です。170小節で再現部は終了です。

 

3楽章の構造は非常に単純で、1,2,3楽章とのバランスがよくないように思えますが、

171小節から始まるコーダでは、1楽章と同様の手法が使われており、第1主題が拡大されて演奏されます。

コーダ

ピアノの3連音符上でチェロとヴァイオリンでテーマが演奏されます。(図20ではヴァイオリンはオクターブ低く表記されています)

この部分の効果により、1楽章との関連付けがはっきりして全楽章がきっちりと引き締まっています。

Mov4005

199小節のクライマックスとしてAs-durで第2主題がフォルテッシモで歌われ、224小節で堂々と終了します。

第4楽章      
小節 小節 区分 内容
提示部
1 10 第1主題部 第1主題
11 17 経過部1
17 23 経過部2
23 32 第2主題部 第2主題
33 43 経過部3
43 58 経過部4
展開部
59 74 展開部 第1主題の変形
74 85 第2主題による展開
97 116 M1による展開
再現部
117 126 第1主題部 第1主題
127 133 経過部1
134 138 経過部2
139 148 第2主題部 第2主題
149 158 経過部3
159 170 経過部4
コーダ
171 198 コーダ部 第1主題による
199 204 第2主題による
205 224 コーダ

 

 

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