フランク ヴァイオリンソナタ 演奏解釈 (1楽章)

 

私がまだ20代のころ、この素晴らしいヴァイオリンソナタについて、1,2,3楽章と4楽章の感じが違いすぎて、それがこのソナタの問題点だという話を耳にしました。そういわれれば確かに1楽章の感じで統一されていた楽想が、終楽章ではがらりと変わっています。

この問題は長く尾を引き、あるとき「ボルジア家の人々」などルクレツィアについて読んでいるときに、ルクレツィアにまつわる噂からヒントを得て大変に文学的な解釈を思いつきました。 もちろんこのような忌まわしい話は、フランクにも、イザイにもまったく無関係です。
文学的な解釈については別にご紹介することとして、ここでは基本となる音楽的な事項をご紹介します。

1楽章の形式はA-A’という形式ですが基本的なモティーフを使用した第1主題と、対照的でM1から離反した第2主題を持っていることから、展開部を欠いたソナタ形式と考えるほうが妥当な感じがします。

それでは、一楽章を詳細に見てゆきます。
Allegretto moderato の序奏で全曲の印象を決定づける動機が提示されます。第1小節目の響きが素晴らしく印象的で、この動機(M1)は問いかけるような、何かにあこがれるような趣があります。この音型を4度繰り返して第1楽章の主題に接続します。

楽譜1(1小節)

FranckVnSonata0101a

 

第1主題はヴァイオリンによって導入されます。 前段の4小節(楽譜2)はM1をメロディの最初と最後に配置した形ですが、控えめな問いかけで始まりもっと控えめな問いかけで終わるフレーズが、2度繰り返されます。4小節目では和音がかわり次のフレーズに接続します。  
楽譜2(5小節)

FranckVnSonata0108
 

次のフレーズはM1が逆になった形で問いに答えているようでもあります。そして不安な感じでいったん終止をします。
(13小節からのフレーズは楽譜3の最初の音をオクターブ下げただけですよ。転調しているのでわかりにくいですね。)

楽譜3(10小節)

 

次のフレーズはM1が逆になった形で問いに答えているようでもあります。

このテーマの演奏は非常に難しいと思います。楽譜2のフレーズはfis"まで上昇して、それからf'をめざして下降するのですが、ここはcresc,でしょうか、decresc.でしょうか?最後のb-d"はどう弾くべきでしょうか。言葉で表現すると「こうしたいんだけど、どう?」という感じでしょうか?

後段10小節から始めるフレーズについては、第1拍にアクセントが来るべきでしょうか。それとも第2拍目のc"にアクセントが来るのでしょうか?
このようなことを考えてこの美しい首題の演奏をきめるのかと思います。ヴァイオリンの長い歌がffで終わるといよいよピアノの登場です。


ピアノによりこの世のものとは思えないほど美しい第2主題が提示されます。第1主題に比べて性格がはっきりしており肯定的です。基本動機(M1)との関連は、32小節の最後にあるg"-h' だけです。h'がオクターブ下なので、問いかけの感じは全くなくて肯定的な感じがします。

このフレーズの重心はやはり32小節目第3拍から始まる g"-h'-h'-a の進行にあると思います。ヴァイオリンが提示したものを肯定し、さらに発展させています。
第2主題は2度繰り返されてますが、2度目は分散和音で美しく修飾されます。そして第2主題の性格を特徴づける分散和音にのって、Vnによる主題がもどってきて、ピアノとヴァイオリンによる掛け合いが続きます。

楽譜4(31小節)

FranckVnSonata0102

 

大変に楽しそうな状況も51小節からの内省的なヴァイオリンにより途切れます。52小節と54小節、そして57,58小節で今度はピアノが問いかけのM!1を歌っているのが印象的です。

そして、次に全曲を支配するモティーフM2が第1部の結尾句としてrinfで現れます。
楽譜5(58小節)
FranckVnSonata0107

このフレーズは固く、拒否的なイメージを与えます。

そして、再現部が始まります。基本的に演奏は第1部と変わりません。63小節からヴァイオリンにより第1主題が再現され、88小節からピアノにより、主調で第2主題が再現されます。その後、結尾部までに多少変化があります。
アウトラインを楽譜6に示します。
楽譜6

FranckVnSonata0105楽譜7は110小節からのM1による結尾部が始まり、余韻のあるコーダで曲を閉じます。
楽譜7 110小節

FranckVnSonata0106

 

 

1st Movement:          
  Introduction 1 4 4 Exposition of basic motive[M1]
Exposition Theme1 5 31 27 Theme for 1st move derived from [M1} 
  Theme2 32 47 16 Free Melody 
  Closing  47 63 17 From M!, Main moteive of 3rd Mov.[M2]
Recapture.

Theme1

63 89 27  
  Theme2 90 97 8  
  passage 97 100 4  
  Theme2 101 108 8  
  passage 108 112 5  
  Closing  112 115 4  
Coda Coda 116   117 2  

 

 

 

 

 

 

 

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