ブラームスの室内楽を演奏すると " poco f" で悩みます。フォルテより少し弱くという意味は分かりますが、なぜフォルテでもなく、mfでもないのか考えてしまいます。それでブラームスがどのような場面で使用するのかを調べてみました。
弦楽六重奏曲 第1番 Op.18 1楽章
冒頭からPoco f です。
図1 1小節
3声部で始まりますが、Va1にはpoco f, Vc1とVc2には poco f espressivo と指示されています。このフレーズはVn1とVa1に引き継がれますが、Vn1 はpoco f espressivo しかし、Vaは単にespresivoです。これはおそらく1小節目でVa1に poco f の指示を出しているので、それが継続しているという理由でpoco f を省いたと思われます。これはpoco f が f と同じようにフレーズ全体にかかることをしてしています。そして、cresc. を経て、31小節で f に到達します。
この例では、フォルテで初めてほしいのだが、先にいってcresc.などが出てくるので、初めから強すぎないように、という感じがします。
次は第2主題です。ここでも poco f espress. animato と指示しています。 このメロディはVn1, Va1 に引き継がれますが、Vn1には f espress animato, Va1には f espressと指示しており微妙に表現が違います。伴奏に回っている Vn2, Va2, Vc2 にはpoco f が書き込まれており、ここでは
音量に差をつける目的で書いているようです
図2 84小節
提示部はここだけです。展開部に入ると、poco piu f がVn2, Vc1にありますが、piu f ですから省略します。再現部での主題は 伴奏形のVn1,Vn2,Vc2も含めて、すべてのパートに piu f sempre cresc.が指示されてテーマを再現します。
第2主題はVa1 により再現されますが、提示部と同様に、poco f espress. animato と指示されています。
第1楽章は以上です。第1主題も第2主題も、だんだん音量が増してゆく特徴があります。だからと言ってあまり小さな音量でも意図に反するのでpoco f なのだと思います。 性格があいまいなmfではないのでしょう。
第2楽章にはpoco f は使用されておりません。Va1の有名な出だしは、そのあとにVn1が控えていますが、単純に f の指示です。129小節でVc1が歌うところは p という指示です。2楽章のテーマはあまり抑制せずに、はっきりと情熱的に弾きなさいということでしょう。
第3楽章は mf で始めます。ブラームスはmfをあまり使用しないので珍しいと思います。何も指示がなければp か mo 位で始めそうです。
第4楽章は Vc1により p で開始します。主題は16小節の形式をしており Vc1, Vn1, 一度離反して、Vn1で42小節から反復されます。この42小節の部分でpoco f が登場します。やはりcresc.を伴うフレーズですが、f には達しません。
図3 40小節
次に弦楽六重奏曲 第2番 Op.38を見てみます。
第1楽章
第2主題をVc1が提示するときに下記のように、poco f espress.の指示があります。ほかの伴奏にまわるパートであるVn2,Va2,Vc2 にはそれぞれ poco f の指示があります。この後Vn1とのユニゾンになりますが、Vn1 だけが f espress.と指定されます。
図5 134小節
再現部で第二主題が再現するときは、テーマはVa1によって演奏されますが、指示はmfです。466小節からデリケートな表現をしており、この部分で伴奏に回る Vn1,Vn2,Vc1,Vc2にはp が指示されています。この後を引き継ぐVn1 は poco f espress.です。伴奏に回るVn2,Va2,Vc1,Vc2 は mf が指示されています。
2楽章、3楽章 4楽章には poco f はありません。
もっと沢山例がありそうでしたが、poco f の使用頻度は高くないようです。しかしながら、重要でデリケートな部分で、しかもフレーズが長いときに、注意深く使用されているような感じがします。
ピアノ入りの室内楽についても調べてみたいと思います。