カテゴリー別アーカイブ: 演奏解釈

ベートーヴェン 弦楽四重奏曲 第13番 変ロ長調 Op.130/133 演奏解釈の手引き(1)

第1楽章

私は13番の四重奏の一楽章にブラックホールのようなエネルギーを感じます。下に向かって沈み込んでゆくようなエネルギーです。ベートーヴェンは4つの降下する音に完全に執着しています。なぜでしょうか?それは大フーガに籠められえいる強烈な上昇するエネルギーとの対照ということで理解できます。第一楽章は独立したがソナタ楽章というよりは、大フーガへの序と考えたいと思います。第一楽章の構成は、13番の四重奏とフーガグロッセを切り離して演奏してはいけないことを雄弁に語っております。以下に詳述します。
 

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Haydnの弦楽四重奏曲 Op.20の強弱記号と発想記号

ハイドンの弦楽四重奏曲について調べました。 初期の作品でOp.20 「太陽四重奏曲」で1772年に作曲されております。したがってモーツァルトが初期のミラノ四重奏曲、ウィーン四重奏曲を書いた時代に一致します。
楽譜はHenle社のHN9208を使用しました。
 

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Brahmsの弦楽四重奏曲 第1番のアンサンブル

今日は、ブラームスの弦楽四重奏第1番を練習しました。前回私が参加できなかったときに、Vn2,Va,Vcでさらってくれたおかげもありますが、このメンバーでは初めてだったのですが、少しテンポは遅めでしたが、初めての試演で全楽章がさあっと通ってしまうのは気持ちが良かったです。

アマチュアのグループにとってこの曲はアンサンブルの難所がいくつかありますのでご紹介するとともに対策を考えてみます。
 

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Mozartの弦楽四重奏曲の強弱記号と発想記号

演奏を行うものとしては、その作曲家がどのような発想記号を使用したかを把握しておく必要があります。それでモーツァルトの弦楽四重奏について
下記のようなリストを作ってみました。初期の作品は当時の普通の記譜形式ですが、中期のK.387「春」からはとても強弱記号が複雑になってきます。
全体の傾向を見ますと、全体の音量よりも、中間の強弱にだんだん関心を持ってゆくのがわかります。特に一つの音符に作用するsf、fp、mfpを細かく使い分けている様子は、彼がどのような音楽をを求めたかを知る手掛かりになります。

下記のデータはベーレンライター社の原典版スコア(TP318, TP140)を使用しました。
表の下にいくつかの楽譜をつけました。

 

Composer Title   Strength Marks Expression Marks 
Mozart String Quartet  K.80 f, p, fp  
Mozart String Quartet  K.155 f, p,   
Mozart String Quartet  K.156 f, p,  cresc.
Mozart String Quartet  K.157 f, p,  cresc.
Mozart String Quartet  K.158 f, p, fp,   
Mozart String Quartet  K.159 f, p, fp,  fermata(mark)
Mozart String Quartet  K.160 f, p, fp,  cresc.
Mozart String Quartet  K,168 f, p, fp,  con sordino, cresc, 
Mozart String Quartet  K.169 f, p,   
Mozart String Quartet  K.170 f, sf, fp, p, pp fermata(mark)
Mozart String Quartet  K.171 f, fp,  p, sempre p,  con sordino, 
Mozart String Quartet  K.172 f, p,   
Mozart String Quartet  K.173 f, p,  decresc.
Mozart String Quartet  K.387 f, p, sf, fp, pp, sfp , cresc, > calando, decresc.
Mozart String Quartet  K.421 f, mf, fp, p,  pp,  sfp, sf, fp sotto voce, sempre p, 
Mozart String Quartet  K.458 f, p, pp, sf, fp, sfp,  cresc. sempre p, staccato
Mozart String Quartet  k.428 ff, f, p, sfp, fp,  cresc. decresc. ten.  
Mozart String Quartet  K.464 f, mf, p, sf,  cresc. decresc. ten.  calando, sotto voce,
Mozart String Quartet  K.465 f, mf,  p, pp, sf, sfp, fp,  cresc. 
Mozart String Quartet  K.499 f, p, pp, sf,  calando, fermata(mark), 
Mozart String Quartet  K.575 f, mf, p, sf, sf,  fp, mfp sotto voce, dolce
Mozart String Quartet  K.589 f, mf, p, sf, sfp, mfp sotto voce, cresc. 
Mozart String Quartet  K.590 f, p, sf, mfp, cresc. fermata(mark)

モーツァルトが弦楽四重奏でたった1回だけ使っている、松葉のdecrescendoです。K387 「春」の第1楽章です。実はMozartはK4428で初めてdecrec,を使います。dim.という書き方はしていません。
MozartK3871mov弦楽四重奏で1回だけ使用されたフォルテっシモです。Es-dur のK.428のメヌエットの中に出てきます。やむなくこうなってしまったようで面白いですね。

MozartK4283mov次はk,465 「不協和音」の1楽章のAdagioの最後の部分です。見えにくいので実際の楽譜にあたっていただきたいのですが、18小節はsfが使われてそれからsfp, 最後はfpです。ここは少し合わせにくいところなので無事通過しただけで安心しているかとも多いと思いますが、ぜひ音のイメージを膨らませて、弦楽四重奏おメンバーと話し合いをして、演奏に反映させていただきたいと思います。

MozartK4651movもう一つ参考例を挙げておきたいと思います。

MozartK4214movK.421 d-moll の終楽章です。89小節からのヴィオラの音をVn1,Vn2,Vcが受け止めるのですが、Vn1 sfp, Vn2 sf, Va fp, Vc sfと書かれています。
なんとなくわかるようなわからないような、しかし演奏は1回しかできませんから、どのように演奏するかは、あなたの主観で一つに決めなければなりません。このようなところが演奏解釈の面白いところです。

 

誰がアクセント記号 >を使い始めたか?

モーツァルトやベートーヴェン、ハイドンも含めてアクセント記号の > を使っていません。声楽曲を調べたことはないのですが、器楽曲については一度も使ったことがないと思います。しかしシューベルトの楽譜を見ると沢山 > が使用されています。例えば下記のイ短調の弦楽四重奏曲です。Schubert Rozamunde png

シューベルトが>を使い始めたとは思えませんので、彼がピアノ五重奏曲「鱒」を書くきっかけになったJohan Nepomuk Humme(1778-1837)lはどうだろうと思いました。Hummelの五重奏曲にもたくさん>がありますが、手書

Hummel Cello Sonata, Op.104

確かに使われています。さてそれではHummelの先生は誰でしょう。 実はHummelはMozartの家に8歳の時から2年間住み込みでピアノを習っています。彼は1793年にウィーンに戻り、アルブレヒツベルガーに対位法、サリエリに声楽作品、ハイドンにオルガンを学び、またベートーヴェンと親交を結んでいます。サリエリの楽譜はよく調べていませんが、ウィーン古典派と同様 > は声楽パートにも使っていないようです。

>が使用されてから、古典派がアクセントとして使用したfzなどとの混同が始まり、fzの意味合いが変わってきてしまったのではないかと思います。
この意味で演奏解釈上も > はなかなか興味があります。

 

 

 

 

 

拍節感を鍛える方法

手前味噌で恐縮ですが弊社のAdMaestroはすごい効果があります。それは指揮者と同じように拍をしっかり示さないと演奏にならないからです。

ベートーヴェン 交響曲3番「英雄」は一つ振りで編集してあります。はじめは調子が良いのですが、主拍に音がないところがたくさん出てきます。第1主題の提示がすんでからの経過部の話です。

このようなところで、振り間違えると音楽がぐしゃぐしゃになるのがAdMaestroです。何度もやっているときれいに音楽が進むようになります。スコアを見ながら振ることをお勧めします。

是非試していただきたいと思います。

演奏解釈

演奏解釈というと皆さんが敬遠します。でも演奏解釈ってなにかなって考えると、音楽を演奏する人にとって避けて通れないことだということがわかります。音楽作品は楽譜という形で生み出され記録されてゆきます。しかし楽譜は音楽ではありませんから、完全に記述することができません。だから楽譜を音楽にするという作業には、いろいろ決定しなければならないことがあり、これが演奏解釈です。

英語ではInterpretationといいますが、劇や音楽上の意味としては、(自己の解釈に基づく)役作り、演出、演奏ということであり、けっして客観的なものではありません。

楽曲分析というのもあり。こちらはアナリーゼとも呼ばれていますが、これはかなり客観性の高いもので、作曲学的な分析なのですが、分析でしかありません。ですから演奏解釈を行うための一つの道具にすぎず、これを尊重しなければならないということはないと思います。

たとえば、バッハの平均律1番のフーガにしても、この曲が素晴らしい密集型のフーガであることは知っておく必要がありますが、これがテーマですよとテーマが出てくるたびに強調されたら、全体として音楽的ではなくなりますね。といって、歌い始めたテーマが途中でブチ切れるような演奏したらこれもいただけません。

演奏解釈ができたという意味は、ほかの人から、ここはどう弾くの?と聞かれたときに、私はこう弾くのが良いと思っている、またはこのように弾きたいと答えられることです。自分が扱う音楽のスコアのすべての部分について明確に答えられれば良いのです。

16小節くらいの曲でしたら感覚だけで演奏解釈は可能だと思いますが、数百小節の楽曲になると感覚だけでは無理でしょう。このブログの一つの目的である演奏解釈は、これを読んでいただいているあなたが、自分らしい演奏解釈ができるようになるお手伝いをすることにあり、いろいろなツールを提案してゆきたいと思います。私の演奏解釈を押し付けるようなことを目的にはしておりません。


 

弦楽四重奏のファーストヴァイオリンを育てる

弦楽四重奏で良いファーストヴァイオリンを育てるのは大変なことです。まず技量が高いことが必要だと思いますが、それ以外にもいろいろな条件があるようです。どんな条件が必要なのか考えてゆきたいと思います。こんなことを言う単純な理由は、私が関係している地元のグループで良いファーストヴァイオリンを求めているからです。いなければ育てようと思うのですがどうすればよろしいのでしょうね。

演奏の録音

昨年、友人がご自身のお葬式用のCDを制作するということで、協力することになり代々木のリブロ音楽スタジオ http://www.libromusic.co.jp/ で録音をしました。PAの方が録音にアテンドしてくれて、とてもきれいな音質で仕上がるので感心しました。すぐに自分もやってみようかと決断ました。友人の方は毎年更新のつもりらしいのですが、私のほうは一度きりと覚悟して精一杯の曲に挑みました。フランクのヴァイオリンソナタとベートーヴェンの弦楽四重奏第13番+大フーガの両方を一気に録音しようと決めました。12月18日に無事録音を終えたのですが、練習の過程で行った演奏解釈をどこかに発表したいと思っておりました。このブログを始めたのでここにご紹介してゆきたいと思います。