第3楽章 Allegretto moderato
自由な形式で書かれているが、ロンドのように聞こえる部分もありますが、単一主題によるソナタ形式と理解する方がわかりやすいと思います。
ここではソナタ形式として解説します。
非常に個性的で美しい主題です。この主題は分解されて徹底的に使用されます。楽譜1は使用されている主な動機を示していますが、リズムの特徴を使ったり、また、順次進行を跳躍に拡大したものなどほかにも沢山あります。
楽譜1 1小節~
では、初めから見てゆきます。
1楽章 Molto moderato
美しいピアノのアルペジオによる序奏に続いて第1主題の提示が行われます。
第1主題全体を楽譜1に示します。
楽譜1
作曲された時代の作品:
ブラームス ピアノ五重奏曲 61-64作曲 1866初演
フォーレ ピアノ四重奏曲第1番 76-79作曲 1883初演
フランク ピアノ五重奏曲 78-79作曲 1880初演
フォーレ ピアノ四重奏曲第2番 85-86作曲 1887初演
ドヴォルザーク ピアノ五重奏曲 1887作曲 1888初演
フォーレ ピアノ五重奏曲第1番 87-05作曲 1906初演
フォーレ ピアノ五重奏曲第2番 19 21作曲 1922初演
楽譜について:
ピアノ五重奏曲 第1番については、初版を出版したG.Schirmerが1974年に絶版にしてしまい、Roy Howatの校訂でLeducから出版されるまで約30年間楽譜が入手できない状態でした。Leduc版の序文からいくつかご紹介します。
この5重奏が着想されたのは、ピアノ四重奏曲完成直後の1887年ごろであり、ピアノ四重奏曲第3番とされる予定だった。その後おそらくは第1楽章の提示部がフォーレとイザイ弦楽四重奏団で試演され、それはピアノ四重奏曲を超えるくらいに情熱的で、偉大な試演だということだった。しかし展開部以降に満足できなくて、諸事情もあり、1906年の初めに完成し、初演はブリュッセルでイザイ弦楽四重奏団とフォーレにより3月に初演された。その後4月30日にパリで演奏され、大変な喝采を浴びた。その後2回演奏されている。 出版はパリの出版社に不満を抱いていたフォーレは友人の仲介によりボストンのG. Schirmer社から出版をした。
校訂上3つの問題があり、1番目は、初版に使われたスコアとパーツが別のソースなので矛盾が多数ある。2番目に初版の原稿である手稿譜が出版後も変更されてしまっている。3番目はテンポの問題であり、テンポは初版にだけメトロノームでの指示があるが、当時の演奏習慣が残っていないこと、フォーレ自信によるものではない。指使いなどとテンポが合わないなど、非常に問題が多い。
要点は以上です。
テンポの問題が一番興味があります。
指定されたテンポ、Howatのサジェスション、そして現代の実際の演奏の速さを比較してみました。
音楽を演奏中に自分はどこで何をしているのか意識したことがありますか?
指揮者だタクトを振り始めたから弾き始めて、曲の終わりまでくればおしまい。曲が短ければよいのですが、長くなってくると後何ページあるのかわからないなんてことはありませんでしょうか。
今回は「どこにいるのか。」の重要性をご説明します。ソナタが一番説明がやさしいのですが、古典的で模範的なソナタ形式は提示部、展開部、再現部とコーダに分かれます。そして提示部の終わりには大体反復記号が付いています。再現部は提示部が繰り返されますので、どこからが再現部かは簡単にわかります。コーダの入りは再現部の終わりです。提示部と同じような終わり方をしてコーダに入るのが普通ですから、これもわかります。
指揮をするにせよ、演奏するにせよ、きっちり構成された音楽でどこのあたりを演奏しているかを、はっきり把握していることは大事です。
第4楽章 Allegretto poco mosso
ソナタ形式:
第1主題はピアノから始まるカノンで書かれています。このメロディは特徴的な跳躍がなく、とても自然で滑らかに流れます。全曲を通じて使用される一楽章のM1の意味深い跳躍から意識的に離れているような感じがします。この主題のM4で示した部分は展開部で使用されます。
楽譜1(1小節)
2楽章
Allegro ソナタ形式
4小節の非常に印象的な序奏に続いて第1主題が提示されます。ピアノ譜はメロディが読みにくいので少し書き換えました。
楽譜1(4小節)
私がまだ20代のころ、この素晴らしいヴァイオリンソナタについて、1,2,3楽章と4楽章の感じが違いすぎて、それがこのソナタの問題点だという話を耳にしました。そういわれれば確かに1楽章の感じで統一されていた楽想が、終楽章ではがらりと変わっています。
この問題は長く尾を引き、あるとき「ボルジア家の人々」などルクレツィアについて読んでいるときに、ルクレツィアにまつわる噂からヒントを得て大変に文学的な解釈を思いつきました。 もちろんこのような忌まわしい話は、フランクにも、イザイにもまったく無関係です。
文学的な解釈については別にご紹介することとして、ここでは基本となる音楽的な事項をご紹介します。
1楽章の形式はA-A’という形式ですが基本的なモティーフを使用した第1主題と、対照的でM1から離反した第2主題を持っていることから、展開部を欠いたソナタ形式と考えるほうが妥当な感じがします。
それでは、一楽章を詳細に見てゆきます。
Allegretto moderato の序奏で全曲の印象を決定づける動機が提示されます。第1小節目の響きが素晴らしく印象的で、この動機(M1)は問いかけるような、何かにあこがれるような趣があります。この音型を4度繰り返して第1楽章の主題に接続します。
楽譜1(1小節)
20世紀の音楽は、それまでの音楽の楽しみ方、評価、すべての面で、それまでの数世紀の音楽の基準を完全に変えてしまったと思います。まづ第一に18世紀以来成長してきた機能和声をよりどころにした音楽が終焉を迎えてしまったこと。音楽の演奏についてはレコード、CD等の登場で最高レベルの演奏が簡単に聞けてしまうという、それまでは想像もできなかった変化が起きました。