Mozartの弦楽四重奏曲の強弱記号と発想記号

演奏を行うものとしては、その作曲家がどのような発想記号を使用したかを把握しておく必要があります。それでモーツァルトの弦楽四重奏について
下記のようなリストを作ってみました。初期の作品は当時の普通の記譜形式ですが、中期のK.387「春」からはとても強弱記号が複雑になってきます。
全体の傾向を見ますと、全体の音量よりも、中間の強弱にだんだん関心を持ってゆくのがわかります。特に一つの音符に作用するsf、fp、mfpを細かく使い分けている様子は、彼がどのような音楽をを求めたかを知る手掛かりになります。

下記のデータはベーレンライター社の原典版スコア(TP318, TP140)を使用しました。
表の下にいくつかの楽譜をつけました。

 

Composer Title   Strength Marks Expression Marks 
Mozart String Quartet  K.80 f, p, fp  
Mozart String Quartet  K.155 f, p,   
Mozart String Quartet  K.156 f, p,  cresc.
Mozart String Quartet  K.157 f, p,  cresc.
Mozart String Quartet  K.158 f, p, fp,   
Mozart String Quartet  K.159 f, p, fp,  fermata(mark)
Mozart String Quartet  K.160 f, p, fp,  cresc.
Mozart String Quartet  K,168 f, p, fp,  con sordino, cresc, 
Mozart String Quartet  K.169 f, p,   
Mozart String Quartet  K.170 f, sf, fp, p, pp fermata(mark)
Mozart String Quartet  K.171 f, fp,  p, sempre p,  con sordino, 
Mozart String Quartet  K.172 f, p,   
Mozart String Quartet  K.173 f, p,  decresc.
Mozart String Quartet  K.387 f, p, sf, fp, pp, sfp , cresc, > calando, decresc.
Mozart String Quartet  K.421 f, mf, fp, p,  pp,  sfp, sf, fp sotto voce, sempre p, 
Mozart String Quartet  K.458 f, p, pp, sf, fp, sfp,  cresc. sempre p, staccato
Mozart String Quartet  k.428 ff, f, p, sfp, fp,  cresc. decresc. ten.  
Mozart String Quartet  K.464 f, mf, p, sf,  cresc. decresc. ten.  calando, sotto voce,
Mozart String Quartet  K.465 f, mf,  p, pp, sf, sfp, fp,  cresc. 
Mozart String Quartet  K.499 f, p, pp, sf,  calando, fermata(mark), 
Mozart String Quartet  K.575 f, mf, p, sf, sf,  fp, mfp sotto voce, dolce
Mozart String Quartet  K.589 f, mf, p, sf, sfp, mfp sotto voce, cresc. 
Mozart String Quartet  K.590 f, p, sf, mfp, cresc. fermata(mark)

モーツァルトが弦楽四重奏でたった1回だけ使っている、松葉のdecrescendoです。K387 「春」の第1楽章です。実はMozartはK4428で初めてdecrec,を使います。dim.という書き方はしていません。
MozartK3871mov弦楽四重奏で1回だけ使用されたフォルテっシモです。Es-dur のK.428のメヌエットの中に出てきます。やむなくこうなってしまったようで面白いですね。

MozartK4283mov次はk,465 「不協和音」の1楽章のAdagioの最後の部分です。見えにくいので実際の楽譜にあたっていただきたいのですが、18小節はsfが使われてそれからsfp, 最後はfpです。ここは少し合わせにくいところなので無事通過しただけで安心しているかとも多いと思いますが、ぜひ音のイメージを膨らませて、弦楽四重奏おメンバーと話し合いをして、演奏に反映させていただきたいと思います。

MozartK4651movもう一つ参考例を挙げておきたいと思います。

MozartK4214movK.421 d-moll の終楽章です。89小節からのヴィオラの音をVn1,Vn2,Vcが受け止めるのですが、Vn1 sfp, Vn2 sf, Va fp, Vc sfと書かれています。
なんとなくわかるようなわからないような、しかし演奏は1回しかできませんから、どのように演奏するかは、あなたの主観で一つに決めなければなりません。このようなところが演奏解釈の面白いところです。

 

誰がアクセント記号 >を使い始めたか?

モーツァルトやベートーヴェン、ハイドンも含めてアクセント記号の > を使っていません。声楽曲を調べたことはないのですが、器楽曲については一度も使ったことがないと思います。しかしシューベルトの楽譜を見ると沢山 > が使用されています。例えば下記のイ短調の弦楽四重奏曲です。Schubert Rozamunde png

シューベルトが>を使い始めたとは思えませんので、彼がピアノ五重奏曲「鱒」を書くきっかけになったJohan Nepomuk Humme(1778-1837)lはどうだろうと思いました。Hummelの五重奏曲にもたくさん>がありますが、手書

Hummel Cello Sonata, Op.104

確かに使われています。さてそれではHummelの先生は誰でしょう。 実はHummelはMozartの家に8歳の時から2年間住み込みでピアノを習っています。彼は1793年にウィーンに戻り、アルブレヒツベルガーに対位法、サリエリに声楽作品、ハイドンにオルガンを学び、またベートーヴェンと親交を結んでいます。サリエリの楽譜はよく調べていませんが、ウィーン古典派と同様 > は声楽パートにも使っていないようです。

>が使用されてから、古典派がアクセントとして使用したfzなどとの混同が始まり、fzの意味合いが変わってきてしまったのではないかと思います。
この意味で演奏解釈上も > はなかなか興味があります。

 

 

 

 

 

Boccheriniの発想記号

発想記号をいろいろ調べているうちに、たまたまボッケリーニの弦楽五重奏の楽譜をIMSPLで見つけました。
初期のMozartに似ていますが、いろいろ違いますね。

使用されている発想記号は下記です。

F.mo F. pocoF. P. P.mo
R. cresc. Tr, Piano, et tenute  cresc.  Sul ponticello  でした。

Boccherini

 

面白いのはRでリタルダンドですが、対応するa tempoは書かれておりません。cresc. に対応する dim.もありません。

調査した曲は下記のVn1パートです。

  1. Quintet in B-flat major, G.271
  2. Quintet in A major, G.272
  3. Quintet in C major, G.273
  4. Quintet in F minor, G.274
  5. Quintet in E major, G.275
  6. Quintet in D major, G.276